ヒーローごっこの時間

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愛知県某所、1月の寒さが身に染みる休日の朝だった。

私は空腹を満たす為に、一人で某有名牛丼チェーン店に入った。

中途半端な時間帯にも関わらず、休日だからか、まぁまぁな賑わいである。

と同時に、すぐに異変には気付いていた。

カウンター越しに、大声で怒鳴っている輩風の年配男性がいる。
その相手をしているのは、その店の店長らしき若めの青年。

「責任者を呼べ!」

一方的に、ものすごい勢いで怒鳴り散らしている男性に対し、店員は困惑し、顔を強張らせながら必死に対応している。

一体どの位の時間、このやり取りをしているのだろうか。

考えてもしようがないので、私は取り合えず席に着くことにした。

誰も接客に来ないところをみると、どうやら今の時間は店員が一人だけの様だ。

賑わっていると思った店内も、実は客のほとんどが食事をとっくに終えていて、帰りたくても店が揉めているせいで、会計が出来ずに呆然と座っているという、変な状態だという事が分かった。

(腹減ってるのに、参ったなぁ…。)

店を変えるかどうか迷っていると、間もなくしてパトカーがやって来て、警察が3人ほど店内に入って来た。

店員が呼んだのか、それとも痺れを切らした客が通報したのかも知れない。

「どうしたの?」

警官が、興奮した年配男性をなだめる様に、優しく語り掛ける。

すると逆にスイッチが入ってしまった男性は、

「どうしたもこうしたもあるかっ!!」

と怒鳴りながら、いきさつを話し始めた。

何でもその男性は弁当をテイクアウトしたかったらしく、この店に入り席に着いたのだが、入ってくるなり席に着いた男性を確認した店員は、店内で食事をするものと思い、お冷を出した。

ところが、注文時にテイクアウトという事が分かり、一度出したお冷を下げてしまったらしい。

それに対し年配男性が、客を馬鹿にしてるのか!とキレたのが始まりの様だ。

うーん、何となく分からないでもないが…。

そのまま警察と年配男性、店員の3人で不毛なやり取りが始まってしまった。

店員も店員で、とにかく嘘でも一生懸命に謝ればいいのに、変な言い訳ばかりして理解を得ようとしている。

とにかく早く食事を済ませたいだけの私は、若いせいもあり段々とイライラしてきた。

大人がこれだけいて、今先に何をするべきか全く分かっていない。

(ダメだ、我慢出来ない…。)

「ちょっとちょっと、おまわりさん」

ついに私は口を開いてしまった。当時の悪い癖でもある。

「そのやり取りいつまで続けるの?
良く見てよ、ここにいる何人もの客が、どうしていいか分からないで疲れ切っちゃってるよ。
何にもしてないただのお客さんが一番迷惑受けてるよ?」

「ん? お、そうか。そうだな。」

3人の中で一番年配の警察官が反応した。言われて納得してくれた様だ。

「俺なんてまだ注文も出来ていない。
内容はどうあれ、営業妨害じゃないの?
早く連れ出してよ」

言わなきゃいいのに、私もしつこく訴えた。

すると、渦中の年配男性が私の方に矛先を向けてきた。当然かも知れない。

「何コラ、お前!」

私は何も言わずに、黙って相手の目を見た。

「よし、取り合えずやること先にやって」

年配警官が店員に促すと、店員はすぐに一人ずつお客さんに頭を下げて周った後で、

「今日はお代は結構です。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」

といった。

(ほう、なるほど。そういう対応取るんだ…)

じっと静かに座っていたお客さん達は、疲れた顔で一斉に立ち上がり、出口まで列を作った。

その中には、途中で私の所まで来て、

「有難うございました、助かりました。」

とか、

「格好良かったです。」

などと声を掛けてきた人もいた。

実際は、私がお腹を空かしていたことが発言の一番の理由なのだが、そう言って貰えるなら言って良かったかもなと少し思える。

その後店員が注文を取りに来て、私はやっと空腹を満たすことが出来た。

その間に、興奮して怒鳴っていた男性を警察は外へ連れ出し、何やら対応しているが、もう私には関係のないことだ。

(よし、食べたし、帰ろ帰ろ)

爪楊枝をくわえながら立ち上がり、店員に軽く会釈をして表に出ようとした私に店員が言った。

「有難うございます、〇〇〇円になります!」

「え? あ、あぁ…はいはい」

(えぇ!? むしろ俺からはお金貰うの? えぇ!?)

心の叫びを発しながら、私は財布に手を伸ばしたのであった…。