本当にあった不思議な話(1)

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これは私が20代前半の頃、東京の郊外で一人暮らしをしていた時のお話です。

当時ワンルームマンションの2階に住んでいたのですが、2車線の道路を挟んで向かい側にコンビニもあり、治安も良く静かで、立地的にとても気に入っていました。

夜更かしをしていたある夏の日。
深夜2時か3時位だったでしょうか。
小腹が空いたので、向かいのコンビニに何か買いに行くことにしました。

部屋着のままエントランスを出ると、いつの間にかシトシトと小雨が降っており、ただでさえ高い湿度を余計に肌で感じました。

辺りは静まり返っていて、コンビニの蛍光灯にぶつかる虫の音が聞こえる程です。

私は適当に買い物を済ませ、店を出てそのまま真っ直ぐにマンションに向かおうとすると

「ズズズズッ…」

と、何か引きずる様な音が近くでしました。

気になったのですが、コンビニを出た直後で暗がりに目が慣れない為、立ち止まってじっと目を凝らしました。

「ズ、ズズズッ…」

ゆっくりと音が目の前まで近づいたと同時に、だんだん目が慣れてきた私がそれを凝視すると、驚いて一瞬息が止まりました。

そこには白っぽい着流しを着た白髪の老婆が、物が一杯入ったスーパーの袋と思われるものを、アスファルトの上で引きずりながらゆっくりと進んでいたのです。

少し腰が曲がり、小雨のせいで長い髪や体が全体的に少し濡れていて、失礼かも知れませんが私は不気味さと怖さでギョッとしてしまい、体が固まりました。

「ズズズッ…」

私に気付いているのかいないのか、老婆はこちらを一切見ることなく、俯き加減のままゆっくりと目の前を歩いています。

良く見るとアスファルトで擦れて袋の一部分が破れており、中の物がいくつかこぼれていましたが、それが何だったかは思い出せません。恐らく大したものではなかったはずです。

立ち止まりながら、瞬間私は色々と思考を張り巡らせました。

(どこから来たんだろうか)

(もしかして徘徊しているのかも知れない)

(私にだけ見えている?)

(見たことないけど、近所の人なのか)

(コンビニの店員を呼ぼうか)

(袋の中身が落ちていることを伝えようか)

しかし何もすることが出来ないまま、10秒ほどが過ぎたでしょうか。

「ズズズズッ…」

ゆっくり、ゆっくりと目の前を歩く老婆を、少し落ち着いてきた私はサッとやり過ごして、自宅に戻りました。

ふぅ~と一息して、今のは何だったのかなと思いながらも今買ってきた物を袋から取り出して、食べ始めていた時です。

私の部屋は建物の2階で、階段を上がってすぐの201号室だったのですが、深夜帯等の静かな時は、マンションのエントランスの扉の開閉が音で分かります。

「ドンッ」

まさかとは思いながら、私はちゃんと確認するためにTVのスイッチを消し、聞き耳を立てました。

嫌な予感がしてしばらくそのままじっとしていると、

「ザザザザッ」

あの引きずる音が下から聞こえてきたのです。

(うわぁ…)

私はへこみました。恐らく入って来たのはあの老婆しかいません。

無意識に私の後を付いて来たのか何なのか分かりませんが、2年以上住んでいてこのマンションで見かけたことは1度もありませんので、老婆がここに住んでいるとは考えられないことです。

さらに嫌な予感がして、私は掛けていなかった玄関ドアの鍵を掛けて、そのままそこで聞き耳を立てました。

しばらく何も聞こえなくなりましたが、安心出来ずにそのままでいると、

「ガザザザッ」

急に階段から引きずる音がして、この時が一番怖かった様な気がします。
一瞬身じろぎしました。

(上がって来る…?)

本当に怪談ドラマの様な状況で、具合が悪くなる程です。

「ガザザザッ」

ゆっくり、ゆっくりと確実に階段を上がって来ているのが音で分かります。

思わず私はドアにキーチェーンを掛け、ドアスコープを覗き込みました。

「ガザザザザッ」

スーパーの袋を引きずる音と共に、階段の下から少し濡れた長髪の白髪頭が見えた瞬間、私は怖さでドアスコープから顔を離しました。

(何なんだ…)

こんなシチュエーション、もし突然ドアを思いきりドンッとかされたら腰を抜かしてしまいそうです。

私の部屋に向かって来ているのか、来たらどうしようかなどと一瞬で思いを巡らせた後、思い切ってもう一度覗き込みました。

すると老婆は丁度階段を上がりきっており、やはり腰を曲げ俯き加減の格好で、私の部屋の真ん前に差し掛かる所です。長い髪で顔は上手く見えません。

「ズズズズッ」

正直怖さはありましたが、私が息を殺してじっと見ていると、まさに部屋の目の前に来たところで老婆の動きがピタッと止まりました。
そしてゆっくりと顔をこちらに向け始めたのです。

(うわぁ…)

それ以上とても見ることが出来ず、玄関から部屋の中央まで静かに素早く移動しました。

年齢的に、そして心理カウンセラーとして活動している今であればまた違ったかも知れませんが、20歳位の当時は誰かに電話するとかそんなこと考える余裕も全くありません。

私が部屋の真ん中で構えたままでいると、すぐに

「ズズズズッ」

また動き始めました。

玄関に近づき音を聞いていると、どうやら3階には上がらず奥の方に進んでいます。

私の201号室の他にはそのフロアに3部屋ありますが、皆顔見知りで老婆が2階に住んでいるはずはないのですが…。

私は幽霊等見たことがありませんし、あまりにもハッキリ見えているので恐らく生身の方ではないかと思うのですが、奥に進んだきり戻ってくる音も気配もしませんでした。

何だかかなり気疲れしてしまった私はそれ以上どうでもよくなり、TVを付けてベッドに横になりました。

それっきりです。

私は一体何を見たのか本当に全く分からないのですが、とにかく不思議な体験でした。

実話そのままなので特別なオチはありません。

東京都のK市での出来事なのですが、もし心当たりのある方は是非ご一報下さい。